全難聴声明

 

全難聴声明

平成26年3月24日

難聴の聞こえと難聴者・中途失聴者への正しい理解を(声明)

一般社団法人 全日本難聴者・中途失聴者団体連合会
(略称:全難聴)
理事長  高岡 正

 日頃は、当会の難聴者・中途失聴者(以下難聴者と略します)の住みやすい社会を目指す活動に際し、国民のみなさまの暖かいご理解とご支援に、厚く御礼申し上げます。  

 さて、先日3月7日に、佐村河内氏による記者会見が行われ、本人が全ろうではなく、身体障害者手帳交付対象にならない感音性難聴であると話されました。その後の質疑応答で、「障害者手帳の対象でなければ聞こえるはず」という身体障害者手帳交付制度と難聴について大きな誤解が生じていることを憂慮しております。

《難聴の程度と聞こえの関係》
 ささやき声も聞こえる状態を国際基準では難聴がない状態(純音聴力検査による平均聴力レベルが25dB以下)と呼んでいます。
 小さな声で話されるのが聞こえないと日常生活に支障を来します。この状態を「軽度難聴」(26~40dB)といいます。
 1メートル離れたところでの普通の会話が聞こえない状態が「中等度難聴」(41~60dB)です。
 さらに大きな声でも聞こえない状態が「高度難聴」(61~80dB)です。
 ほとんど何も聞こえない状態が「重度難聴」(81dB以上)です(詳細1※)。

1※WHO世界保健機関による聴覚障害等級(英文PDF)

 我が国の身体障害者手帳交付は、相手に40㎝の距離まで近づかなければ会話が聞こえない状態(70~79dBの6級)から始まり、耳元の大声でなければ聞こえない状態から全く聞こえない状態まで(80dB以上の4級から2級まで)とされ、国際基準に比べて、その設定された基準はとても高いのです(詳細2※)

2※身体障害者手帳交付基準(厚生労働省HP)
6級(70dB〜)、4級(80dB〜、または語音明瞭度50%以下)、3級(90dB〜)、2級(100dB〜)

 しかし、音が聞こえることと言葉が分かることとは別です。
 身体障害者手帳交付基準に満たない軽度・中等度難聴でも言葉が聞き分けられない方もいれば、高度・重度以上の難聴でも補聴器や人工内耳を適用することにより音声をある程度聞き取れる方もおります。

《難聴の特徴》
 さらに、軽度・中等度難聴者も含め、全ての難聴者が抱える最も大きな問題は、「聞こえ」が生活環境や心身状態の影響を強く受けることです。話し手が少し離れただけで聞こえにくくなります。
 相手の方の話し方が早口であったり、明瞭でない場合ではなおさら聞き取れなくなります。
 複数の人が同時に話す場面や、騒音のある室内、車の行き交う街頭などうるさい場所でも音声の聞き取りが難しくなります。
 ですから、聞こえているように見えても実は大変な聞き間違いをしていたりすることがよくあります。
 また、難聴者は自分がどのような難聴なのか、どの程度聞こえていないのかについての適切な認識や判断が困難です。聞こえの不自由な高齢者と身近に接していらっしゃる方にはご理解いただけると思います。
 難聴者がコミュニケーション弱者と言われる所以です。

《コミュニケーション方法の工夫》
 コミュニケーションは、聞こえるか聞こえないかだけではなく、言葉のキャッチボールができることで成り立ちます。
 難聴者と接する際には、相手が話しの内容を理解しているかどうかみながら、聞こえの程度によってはゆっくり話す、筆談をする、物・場所の指差し、文字情報の提示などの工夫をしていただくことで、キャッチボールはしやすくなります。
 要約筆記者を介することも大変有効です。手話が活用できる方には手話や手話通訳を介することも有効です。

《難聴者福祉サービスの遅れ》
 補聴器供給システムの在り方研究会(河野康徳代表)が、平成14年に日本の難聴者数を調査しましたところ、1944万人、全国民の6人に1人が難聴という結果となりました。
 外から見ても分からない難聴の障害の特徴もあり、我が国では周囲の方々や社会の理解・認識が進んでおらず、多くの難聴者が日常生活や仕事の面で大変苦労しています。
 特に、軽度・中等度難聴者は身体障害者手帳を取得できず、福祉機器給貸与等の障害者福祉サービスを受けることができません。
 欧米の福祉先進国では、軽度、中等度難聴者に対して福祉サービスや医療保険で補聴器を給付しているところが多くあります。

《難聴者等の住みやすい社会へ》
 全難聴では、

障害者権利条約の発効、障害者基本法改正に基づき、聞こえなくても普通に生活できる社会の理解と環境整備を求めています。 また、聞こえの配慮・支援に活用するための啓発マークである耳マークの普及(耳マーク部)、 全ての音声にアクセスするための補聴援助システムの設置、字幕放送や文字表示システムの普及、要約筆記者派遣事業の拡充を求めています。
聴力検査方法を厳しくすることで、障害者福祉サービスを受けられる対象を狭めるのではなく、 普通の会話や生活音の聞き取りが困難な人を対象にするように、世界保健機関(WHO)の基準(詳細1※)に合った聴覚障害の認定のあり方について検討を求めています。
全ての聴覚障害者を総合的に支援できる健康支援センターと音声認識技術等による会話支援システムの確立をめざして、研究を進めています。

 国民のみなさまには、難聴者のコミュニケーションや、社会におかれた状況を深くご理解いただき、私たちにとって、 暮らしやすい社会作りにご協力いただけますようお願い申し上げます。

(本声明文の聴覚障害の専門的な部分については、東京大学先端科学技術研究センター・バリアフリー分野の大沼直紀先生に監修いただいております。)

声明文PDF