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1.序論 我が国の障害者雇用は「障害者の雇用の促進に関する法律」(以下 雇用促進法)にて措置されているようではあるが、実態は雇用を義務づけられている常用労働者に対する障害者の雇用率1.8%以上を達成する企業間まれである。 雇用率未達成企業は足りない人数1人につき月額5万円の障害者雇用納付金を支払わなければならない。一方、1.8%を超えて障害者を雇用している企業などには、調整金・報奨金・助成金などが給付される。しかしながら、法定雇用率の制度が義務化されたのは1976年だが、全国平均の障害者雇用率が法定雇用率に達したことは一度もない。2002年6月現在では、法定雇用率の1.8%に満たなかった企業が57.5%と過去最多になった。「障害者を常時雇用するよりも納付金を支払う方が経費的には安い。」という考えもあるようで、企業側としては障害者を雇用することは「非効率」「経費がかかる」と捉えられがちである。 また、聴覚障害者が取得できない資格免許は数多くあり、就労への制限も事実上あった。これを「欠格条項」というが、国内障害者団体の運動で大幅な見直しが行われ、資格取得への道は少しではあるが開かれた。 しかしながら、就労に関する「入口」を見直しているだけで、最も切実な問題である「就労中」についての問題解決に関する取り組みはまだまだ途上であると言える。難聴者はコミュニケーション障害により、日々の業務連絡、会議、研修等への支援がかかせない。しかし、実態は支援は限りなく少ない。雇用促進法においても就労中の支援についてはあまり具体的には触れられていない。先述した障害者雇用納付金制度に基づく助成金においては聴覚障害者に対して「手話通訳」への助成はあるにも関わらず、手話を取得していない、理解できない難聴者が必要とする「要約筆記」への助成には触れられていない。なお、聴覚障害者のコミュニケーションについて厚生労働省が調査した「平成8年身体障害者実態調査及び身体障害児実態調査の概要について」によると、国内の聴覚障害者は約30万人であるが、うち手話が十分に使える人は、約4.3万人(14.1%)という結果がでている。単純には言い切れないが、残り80%は十分に手話を理解できていないと解釈した場合、これらの助成制度には不備があるといえよう。 そういうことから、今現在働いている難聴者は本当に十分な支援を受けているといえるのか、全難聴青年部ではその問題を取り上げ解決していくために複数年に渡り「職業問題に関する事業」を展開した。 2.全難聴青年部とは? 全難聴は各都道府県単位の難聴者協会59団体が会員として登録されている。その各地域協会には青年層を対象とした「青年部」という専門部がある。地域によっては青年層が不足し部として存在しない地域もある。 これらの各地域協会青年部より2〜3人の代表者を選出し全国組織を形成している。また、現在は関東・近畿・中四国ブロックが単位組織として運営されている。 全国組織としては「全国難聴者青年活動者研修合宿」「全国聴障青年の集い」を2大事業として毎年実施し難聴青年の交流の場を設けている。この他にホームページ等の広報活動も実施し、情報提供も行っている。 3.職業問題への取り組み 2002年名古屋市で開催された「第21回全国難聴者青年活動者研修合宿」では難聴青年が抱えている諸問題を6課題とりあげ、事業化する討議を行った。その中で「職業問題」が事業案として採択され「職業プロジェクト(以下職業PJ)」と命名した。 柱を聴覚障害者がいる職場改善を目指すマニュアル作成におき、全国公募でプロジェクト委員(以下PJ委員)を募集した。総勢約20名程を「マニュアル作製班」「アンケート班」「情報収集班」「渉外班」「マニュアル活用班」に分けメーリングリストを活用し日夜議論を続けた。 「マニュアル」作成に向けて全国に職場実態に関するアンケート調査を行い約160名からの回答を得た。マニュアルに結果が掲載されているが、職場での情報保障は皆無に等しく個人での取り組みが多い結果となっている。聞こえない事で差別を受けている実態も浮き彫りになった。 これらの問題や取り組み等を幅広く周知させていくために、3ブロック(関東・近畿・中四国)での研修合宿で職業問題を取り上げ議論し、その結果等を2003年岡山で開催した「第22回全国難聴者青年活動者研修合宿」で報告、討論を実施した。同年京都での全国福祉大会分科会にて開催した「全国聴障青年の集い」においても差別法の視点より議論するなどマニュアル作成と並行させて全国的な討論を展開し、職業問題への関心を集めた。また、この京都での取り組みは大会終了後、NHKの番組で関係者が出演し「職業PJ」に関する報告を行った。全難聴青年部が創立されて20余年になるが、希にみる広範囲な取り組みとなっている。 4.マニュアル作成 研修合宿等での議論等と並行して冊子作成に向けての取り組みも行っていった。 当初は青年部レベルでの小さなものではあったが、諸問題を的確に捉えてるということより全難聴が受けている助成金対象事業に格上げされた。 今までにも聴覚障害者の職場に関する冊子等は作成されてはいるが当事者がその作成に関わった様子は見受けられず偏った内容も見受けられた。そういうことから、今回は本文作成、イラスト、レイアウト編集等すべてを聴覚障害者自身で作成していく事にした。かなりの労力を要したが、当事者が作る当事者のための冊子である事は評価できる。 構成は以下のようになる。 第1章 聴覚障害者の職場実態 第2章 聴覚障害者に適した職場環境とは? 第3章 聴覚障害とは? 第4章 聴覚障害者とのコミュニケーションについて 第5章 情報保障について 第6章 職場用補聴援助機器について 第7章 雇用・定着支援のための制度・助成金について 第8章 困ったときはこちらへ 第9章 差別する法律から、差別をなくす法律へ 最初に、聴覚障害者の職場でのおかれた問題点を抽出し、その解決策を図式入り等で提示する。その後の章では、解決策の参考となる事項や聴覚障害者の理解のための知識を盛り込んだ。2003年7月より作成に着手し、2004年5月に完成した。 5.マニュアルの活用と今後 1000部作成し、難聴者団体や各関係団体に贈呈した。企業については絶対数的に不足するが、難聴組織に属する会員がこの冊子を活用して企業や行政に職場改善の提案等実施していければ良いと考えている。 聴覚障害者に限らず、障害者の雇用状況は日本の不況にあわせて悪化の一途をたどっている。序論で述べたように効率、利益を重視する企業側としては障害者は雇用しにくいのが本音なのかもしれない。しかし、リストラ等に関しては障害者だから、という理由は不当である。聴覚障害者に絞って言えば、情報保障等の支援を受けて会議に参画でき自身の持ちうる能力を発揮できるようになって初めて健聴者と同じスタートラインにつけるのである。障害そのものを能力の有無でとらえる事なく、本人が元々持つ能力で判断してもらいたいものである。このマニュアルがその理解促進の一助になれば幸いである。 |